事業戦略とは?重要性やポイント、フレームワーク、事例を解説

 2023.04.26  株式会社システムインテグレータ

事業で成功を収めるには、経営資源をはじめとした内部環境や競合・市場動向などの外部環境を把握し、適切な「事業戦略」を立てることが重要です。事業戦略の立て方を誤ると、豊富な人材や資金、設備といったリソースを持っていても、事業に失敗する恐れがあるでしょう。そのため、事業戦略を策定する際は、適切な方法や注意点を把握して取り組むことが重要です。

この記事では、既存事業の見直しなどで事業戦略に悩まれている方やこれから新規事業を立ち上げようとしている方向けに、事業戦略の概要や策定方法、役立つフレームワークや策定のポイントなどを解説します。

事業戦略とは

「事業戦略」とは経営戦略の一つで、事業単位で目標を達成するための戦略を指します。経営戦略は企業全体の戦略を指すのに対し、事業戦略は自社の事業ごとに、外部環境や内部環境に着目して方針や計画を策定するのが特徴です。

事業戦略では、事業レベルで経営資源(=ヒト・モノ・カネ)の効率的・効果的な活用や、どのように経営資源を蓄積し分配していくのかなど、基本的な方針の策定を行います。また、事業戦略の策定により、企業全体の方向性に沿って各部門が意思決定をするため、異なる部門間で連携がしやすくなるのも特徴です。

事業戦略の重要性

企業には存在する目的や価値・果たすべき使命があり、それを示すのが「経営理念」です。そして経営理念で掲げられた目的を達成するために「経営戦略」が策定されます。しかし、経営戦略だけでは目的を達成することはできません。同じ企業でも事業内容によって割り当てられるリソースは異なり、市場や競合他社といった外部環境は常に変化しているからです。

そのため、「経営戦略」とともに必要となるのが「事業戦略」です。経営戦略に沿って事業戦略を策定することにより、それぞれの事業の特性や市場状況を考慮した、より具体的な戦略によって目的の達成を実現できるでしょう。

事業戦略策定の方法

事業戦略の策定には、大きく5つのステップに分けて段階的に進めていく方法があります。手順通りに作業を進めることで、作業の抜けや漏れのない効果的な事業戦略を策定できるでしょう。

目的・目標の設定

事業戦略の策定で最初に行うことは、「目的・目標の設定」です。「何を達成したいのか」という目的を明確にしたうえで「どのような業績を目指すのか」という目標を設定します。目標を設定する際は、例えば「月の売上を200万円達成する」「月の新規顧客を5件増やす」といったように、できるだけ数値化し定量評価できるようにしましょう。目標の数値化によって目標の達成度を把握しやすくなり、目標達成に向けた活動方針を立てやすくなるでしょう。

一方、目的・目標の設定が明確ではないと何のための事業戦略なのか曖昧になってしまいます。そのため目的・目標の設定は、5つのステップのなかで重要な基盤といえます。

現状の分析

現状分析とは、外部環境の分析を行い、その環境における自社の位置づけを明確にすることです。具体的には、自社が参入している市場や業界の分析を行ったり、競合他社と比較を行ったりすることで自社の競争力を把握します。例えば「自社製品の市場シェア率は20%」といった具合です。現状分析は、5つのステップの中でも特に重要で、失敗すると今後の戦略は破綻する恐れがあります。

外部環境の「市場のニーズ」や「競合の競争力」と、内部環境の「自社の持つリソース」や「ブランド力」の分析を行うことで、実現可能で効果的な戦略を策定できるでしょう。

方向性の策定

次のステップでは、現状の分析に基づき事業戦略の「方向性の策定」を行います。この際、以下で紹介するフレームワークの一つ「SWOT分析」を活用するといいでしょう。SWOT分析で、外部環境(事業の機会と脅威)と内部環境(自社の強みと弱み)を明確にし、外部環境で分析した内容から自社が提供できそうな価値を特定します。そして、目標達成のために必要なリソースを調達したり活用したりして、戦略の方向性を策定しましょう。

方向性の策定ポイントは、方向性を一つに限定せず、複数の選択肢を準備しておくことです。方針を限定してしまうと、万が一成果が出なかった場合、事業が行き詰まってしまうかもしれません。しかし、複数の選択肢を持っておけば、最初の方針で成果が出なかったとしても別の方向に舵を切れます。

フィジビリティスタディ

方向性の策定が終わったら「フィジビリティスタディ」を行います。フィジビリティスタディとは、事業戦略の「実現可能性」を評価することです。方向性の策定で考えた複数の戦略を、フィジビリティスタディで実現可能か見極めていき、最も実現可能性の高い戦略を選びます。

フィジビリティスタディでは選定した事業戦略について、かかる費用やメリット、予測される結果やリスクなどを考慮し、客観的に評価を行うことが重要です。

施策の策定・実行

フィジビリティスタディで評価した方針を実行に移します。事業戦略としていた内容を、現場で実行できるレベルの施策に落とし込むのです。

施策を実行する際は、具体的な施策を複数策定しておきましょう。策定した複数の施策にコストやメリット、重要度などを踏まえて優先順位を付けます。順位付けが終わったらスケジュールを決め、優先順位の高いものから実行していきましょう。

事業戦略策定に活用できるフレームワーク

事業戦略の策定は、分析する情報を闇雲に集めても効果的なものにはなりません。効果的な事業戦略を策定するためには、適切なデータ収集と分析が不可欠です。フレームワークはさまざまあり、事業戦略に適したものを活用することで、データ分析に役立てられます。ここでは、事業戦略策定に活用できるフレームワークを9つ紹介します。

3C分析

3C分析とは、外部環境と内部環境を対象に分析するフレームワークの一つです。3C分析では、下記の「3つのC」について分析を行います。

  • Customer(顧客):市場・顧客のニーズ
  • Competitor(競合):競合他社の商品や動向
  • Company(自社):上記2つの分析結果を踏まえた自社の強み

「顧客や市場のニーズ」や「業界内における競合他社の動向」を調査し、その結果から「自社の強み」を見極め、事業戦略を策定します。3C分析は、新規で事業戦略を策定するケースよりも、既存の事業戦略での課題や問題点を解決し、改善する場合に用いられる傾向です。例えば、「売上の減少」「過剰在庫」「原材料費の高騰」などの問題が生じた際に活用します。3C分析によって、原因を解決するためにどのような改善方法が適切か把握できます。

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PDCA分析

継続的に業務を改善する手法として、「PDCAサイクル」があります。PDCAサイクルとは、「Plan=計画」「Do=実行」「Check=評価」「Action=改善」のプロセスを繰り返しながら、業務に潜む課題点を抽出し改善することで、より良い戦略につなげる手法です。

例えば、ある飲食店で売上が伸び悩み、テイクアウト商品の販売を計画(Plan)し実行(Do)したものの、売上が一向に伸びない状況だとします。売上が伸びない原因を探るため、評価(Check)を行ったところ「宣伝が甘く店の認知度が低かった」という課題点が見つかりました。そこで、改善(Action)活動として「宣伝に関する費用と人材の投資」を行います。その後、改善内容を基に再度「計画、実行、評価」につなげていくという一連の流れがPDCAサイクルです。

こうした一連のサイクルにより業務を分析することを「PDCA分析」といいます。事業戦略の策定時よりも、事業を実行した後の継続的な改善活動に使われます。

PEST分析

PEST分析は、事業の外部環境を分析するフレームワークの一つで、以下の項目の分析を行います。

  • Politics(政治):法律、税制など
  • Economy(政治):景気動向、為替変動など
  • Society(社会):人口、文化など
  • Technology(技術):イノベーション、特許など

外部環境は、自社の力でコントロールできるものではありません。PEST分析では、経済や政治などが事業に及ぼす影響を考え、市場に参入するかの判断や具体的な戦略の策定を行います。

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STP分析

STP分析とは、以下の英単語の頭文字をとった分析法のことです。分析を行う際は以下の順番で行います。

  • Segmentation:消費者を年齢や性別・居住地などの要素でセグメント(集団)に分類する
  • Targeting:セグメンテーションの分析結果を踏まえ、狙うべき市場や顧客層を決定する
  • Positioning:市場における自社の立ち位置を明確化する

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SWOT分析

SWOT分析は、内部環境と外部環境それぞれを分析できるため、事業戦略の策定でよく使われるフレームワークです。SWOT分析では、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4要素の分析を行います。

 

プラス要因

マイナス要因

内部環境

Strength(強み)
自社の持つ強みや長所

Weakness(弱み)
自社における弱みや短所

外部環境

Opportunity(機会)
社会や市場の変化でプラスに働くこと

Threat(脅威)
社会や市場の変化でマイナスに働くこと

自社の持つ「強み」や「弱み」を把握することは、経営において非常に重要です。また、「機会」と「脅威」も分析することで、戦略の策定に役立てられます。

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VRIO分析

VRIO分析とは、内部環境を対象に分析を行うフレームワークで、自社の経営資源を下記の4つの視点で評価します。それぞれの要素がどのような状態にあるか把握し分析します。

  • Value(価値):自社の持つ経営資源が市場に提供できる価値
  • Rarity(希少性):自社の持つ価値の中で希少性のあるもの
  • Imitabillity(模倣可能性):自社が持つ価値の中で競合他社に模倣されにくいもの
  • Organization(組織):経営資源をスムーズに活用できる組織体制

バリューチェーン分析

バリューチェーンは「価値連鎖」を指し、商品が顧客に提供されるまでの事業活動のつながりを「価値の連鎖」として捉えることです。「バリューチェーン分析」は、「価値の連鎖」を分析するフレームワークであり、各工程ごとに客観的な分析を行うことで、どこで高い価値を生み出せているのかが明確になります。バリューチェーン分析により自社の強みを把握できるため、競合との差別化が可能です。

ファイブフォース分析

ファイブフォース分析は、市場の主な企業の影響力を把握するために役立つフレームワークです。下記の5つの要因について分析を行うことで、事業における外部要因の把握に役立てられます。

  • 新規参入の脅威
  • 買い手の交渉力
  • 売り手の交渉力
  • 代替品や代替サービスの脅威
  • 既存競合同士の競争

ファイブフォース分析の結果をもとに、どのような戦略が必要か考えるといいでしょう。

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マーケティングミックス(4P)

事業戦略だけでなく実践で役立つのが、マーケティングミックス(4P)と呼ばれるフレームワークです。下記の4つの項目について検討を行います。

  • Price(価格)
  • Promotion(プロモーション)
  • Product(製品・サービス)
  • Position(流通・チャネル)

事業の成否へ特に大きな影響を与えるため、4項目を中心に戦略を策定することで、事業内容を具体化できます。

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事業戦略策定のポイント・注意点

新規事業を立ち上げる場合、適切な事業戦略の策定は必要不可欠です。ここでは、事業戦略策定のポイントや注意点を解説します。なお、新規事業の立ち上げについては下記の記事で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。

事業企画を行うために必要なポイントと実行プロセスをご紹介

経営戦略を考慮する

事業戦略は、経営戦略を実現するために各事業単位で策定されます。そのため、事業戦略は経営戦略と乖離してはいけません。経営戦略を考慮せずに事業戦略の策定が行われると、リソースの配分で経営層と事業部の間に摩擦が生じかねないためです。事業戦略を策定する際は、経営戦略を考慮するようにしましょう。

競合との優位性を確立させる

競合との優位性を確立することも重要なポイントです。どんなに優れた商品やサービスでも、既に競合他社が手掛けたものであれば、自社の事業の成功確率は低くなるでしょう。そのため、他社にはない独自の価値を提供する必要があります。具体的な差別化のポイントには、以下が挙げられます。

  • 商品の品質
  • サービスの丁寧さ
  • 価格
  • 保守性 など

リソースを確保し適切な人材を置く

適切な戦略を策定できたとしても、実行できるだけのリソースや組織力がなければ目標を実現できません。また、十分なリソースがあっても、各事業部へ適切に分配されなければ戦略を実現できないでしょう。そのため事業戦略を策定する際は、事業部が必要なリソースを確保し、適切な人材を配置する必要があります。

なお、自社にどの程度のリソースや能力があるのかを把握するために、「QDC」という指標が用いられます。QDCとは、「Quality(品質)」「Delivery(納期)」「Cost(費用)」の3つの要素を表わすものです。それぞれの要素について、実現可能性を検討し、難しい場合は戦略を再構築する必要があります。

事業戦略の事例

事業戦略の事例としてユニクロの取り組みを紹介します。

ユニクロのグレーターチャイナ(中国・香港・台湾を含む地域)では、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2022年8月期の営業利益が834億円(前期比16.8%減)と大幅な減益になりました。しかし、マーケティングの強化や経済活動再開を見据えて、販売体制や売り場の構築を進めたため、第4四半期3カ月間では大幅に増益しています。

具体的な取り組みとして、ここ数年で「LifeWear(究極の普段着)」のマーケティング強化を進めてきました。このコンセプトによるマーケティング強化で幅広い層の顧客ニーズが高まったのです。また、商品開発でも積極的にさまざまなデザインや素材、カラーなどを提案していくことで、グローバルでも売れる商品が誕生しています。

さらに人材育成にも注力し、ユニクロの経営姿勢や理念を理解し実践できる人材を育て、競合に対し競争優位性を確保しました。今後も適切な事業戦略の策定を継続していけば、さらなる事業の成長が期待できるでしょう。

まとめ

事業の成功を実現するためには、経営資源といった内部環境や競合や市場動向などの外部環境を正確に把握したうえで、適切な事業戦略を策定することが求められます。事業戦略は、新規事業を軌道に乗せる場合に、特に重要な要素です。

今回の記事で紹介した事業戦略の策定方法やフレームワークを実践して、事業をブラッシュアップしていきましょう。新規事業のアイデア発想についてまとめた資料をご用意していますので、ぜひご覧ください。

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