現代において市場の変化は加速しており、企業が生き残るためには顧客への新しいアプローチの実施やイノベーション創出による新規事業の立ち上げなど、柔軟な対応力が求められます。特に近年はスタートアップの台頭や市場への新規参入といった事例が増えており、競争優位性を確立するのが難しくなっています。そこで本記事では、新規事業を企画して立ち上げる際の課題や重要なポイントなどについて解説します。
新規事業を立ち上げる目的とは
現代は技術革新の進歩・発展に伴って産業構造の変化が加速しており、それに比例するかのように市場の競争性は激化の一途を辿っています。さらに近年の国内市場は成熟化が進み、消費が減速するとともに、顧客や一般消費者のニーズは多様化かつ高度化していく傾向にあるのが実情です。また、市場の成熟化に伴い商品やサービスが飽和状態となり、消費傾向は物質的な価値を求める「モノ消費」から、体験価値を重視する「コト消費」へと遷移しつつあります。
このような社会的背景も相まって、現代は「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれています。VUCAは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった、先行きが不透明で予測が困難であることを表す造語です。このような状況において企業が市場の競争優位性を維持するためには、組織を取り巻く環境の変化に対して柔軟に対応し、時代のニーズを捉えた新規事業を創出していかなくてはなりません。変化が加速する現代の市場において新たな収益の柱を創出するとともに、組織の人的資源を育成・強化するためにも新規事業の立ち上げが求められています。
新規事業の立ち上げのプロセス
新規事業を創出する際は基本的に「経営ビジョンの明確化」に始まり、「市場調査」→「事業プランの方向性と参入市場の決定」→「ビジネスモデルの検討」→「事業計画の立案・策定」というプロセスを辿ります。まずは企業の存在意義や在るべき姿を言語化し、中長期的な経営目標を定めます。次に、経営目標を実現するためには事業計画を策定する必要があるため、参入する市場の現状や需要規模、将来性、見込み客の属性などをリサーチしなくてはなりません。
このリサーチを通して参入市場の動向や需給の状況を調査し、収集・蓄積されたデータから見込み客の潜在的な需要や消費者のインサイトを発掘します。そして、リサーチに基づいて事業プランの方向性と参入する市場を定め、経営目標の実現性や自社の優位性、収益性、市場占有率などの観点からビジネスモデルを検討します。具体的なビジネスモデルが定まったら、担当者を決定し、マーケティング戦略や販売促進戦略、営業戦略、数値計画などを具体的な事業計画に落とし込みます。これが、新規事業の立ち上げにおける基本的な流れです。
新規事業の立ち上げにおけるポイント
新規事業を成功に導くためには、まず立ち上げの時点で押さえておくべきポイントがあります。ここでは重要なポイントを2つご紹介します。
ニーズ、市場規模の分析
新規事業の立ち上げにおいて、最も重要といえる業務のひとつが市場調査です。どれだけ優れたプロダクトを設計・開発しても、参入する市場のマーケット規模が縮小傾向にあっては収益の最大化や事業の拡大は期待できません。また、長期的な成長が見込める市場であっても、見込み客や消費者の本質的なニーズを把握できなければ、競合他社との差別化が図れず、市場占有率の獲得は困難です。そのため、参入する市場の規模や将来性、自社の事業との親和性や経営目標の実現性など、多角的な観点からマーケットを調査し、戦略的な事業計画を策定しなくてはなりません。自社の内部環境と外部環境を分析する「SWOT分析」や、消費者が求める付加価値や価格帯を分析する「4P分析」などの手法を用いた、ロジカルなデータ分析を起点とする事業計画の立案・策定が求められます。
チームビルディング
新規事業の立ち上げを成功へと導くためには、最終目標の達成に向けて人材が備える固有の能力や経験などを最大限に活かし、ともに協力し合うチームの構築が不可欠です。アリストテレスの「全体は部分の総和に勝る」という言葉のとおり、個人の働きの総和よりもチームメンバーの相互作用で生み出す成果の方が大きなものになります。いくら優秀な人材を集めても、個々の強みを活かしながらチームワークが機能しなければ大きな成果は期待できません。熱意があり新規事業のビジョンを共有できる社員を集め、社内に知見が足りなければ社外の経験者や専門家の協力を求めたり外部パートナーと協働したりするなどしてチームビルディングを推進します。
新規事業立ち上げにおける課題
企業の経営基盤を支えているのは「人的資源」「物的資源」「資金」「情報」という4つの経営資源ですが、新規事業の立ち上げ時に起こり得る課題として挙げられるのが、これらのリソース不足です。新規事業のプロジェクトには、事業企画や市場分析などのノウハウを持つ「人的資源」が必要になります。しかし、不確実性の高い新規事業に優秀な人材を引き込むのは容易ではありません。優秀な人材ほど重要プロジェクトの中核メンバーとしてアサインされているケースが多いからです。中小企業ではそもそも人材不足で新規事業に割ける人的資源がないかもしれません。。
また、前述したとおり新規事業は不確実性が高いため、予算の確保ができない場合もあります。「資金」の調達手段は金融機関による融資が一般的ですが、実績に乏しい中小企業の新規事業に関して十分な融資が認められるケースは多くないのが実情です。
このように人材や投資費用といった経営資源の不足が新規事業の立ち上げ時における代表的な課題です。
新規事業の失敗事例と注意点
新規事業の失敗を招く要因として多いのが、前項で課題として挙げた「ナレッジの不足」と「人材の選定ミス」です。たとえば、コンビニエンスストアや百貨店、銀行、Webサービスなど、幅広い事業を展開する大手流通持株会社が手掛けたスマホ決済アプリがセキュリティインシデントを引き起こし、わずか3ヶ月足らずで終了した事例があります。これは新規事業に関するナレッジの不足と人材の選定ミスによって引き起こされた事例のひとつです。
また、参入市場の需要動向や設備投資の予算規模を見誤ったり、不採算事業から撤退するタイミングを定めていなかったりといった要素も失敗の要因として挙げられます。
これら失敗要因の多くは、市場の調査・分析が不十分だったり、事業企画の甘さやノウハウ不足が解消されていなかったりといった準備不足に起因します。他社事例を研究し、経験者・専門家の知見を借りるなどして、対策を練ることが重要です。
まとめ
現代はテクノロジーの発展に伴って市場の変化が加速しており、競争優位性を確立するためには時代のニーズを捉えた新規事業の創出が求められます。そして、新規事業の立ち上げを成功させるためには、競合他社にはないビジネスアイデアの創出と十分なリソースの確保が欠かせません。
新規事業のアイデア創出についてまとめた資料がありますので、ぜひ併せてご覧ください。
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