垂直統合・水平統合とは?意味やメリット、デメリットを解説

 2022.07.08  株式会社システムインテグレータ

企業のM&Aがニュースなどで取り上げられる機会も珍しくなくなりましたが、そのなかで垂直統合や水平統合といったキーワードが出てくることがあります。垂直統合・水平統合とは何なのか、意味やメリット、デメリット、進める上でのポイントなどについて、この記事で解説します。 

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垂直統合とは

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垂直統合とはどのような戦略であり、どのようなメリット・デメリットがあるのか、ビジネス戦略とM&Aの二つの観点から見てみましょう。 

ビジネス戦略における垂直統合

たとえばあるメーカーが製品を製造して消費者に販売するまでには、製品の開発、原材料の調達、部品の製造、販売店への流通、消費者への販売など多数の工程があります。それらを支える開発業務や労務管理などを含め、こうした一連の経済活動の連なりを価値連鎖(バリューチェーン)  といいます。また、バリューチェーンの調達・製造側を上流、流通・営業・販売側を下流といいます。

このとき、すべての工程を自社で行うのか、それとも市場内の他社から市場取引で工程を調達(アウトソーシング)するのか否かという選択肢が生まれます。これらの経済行為は技術的に別々の行為ですが、これらバリューチェーンを自社内にまとめることを垂直統合と呼びます。 

内製化をすれば、各工程間での情報やモノの融通は容易になり、特に上流に柔軟性が生まれます。また、製品の品質管理や製造ノウハウを自社で押さえて蓄積することもできるなど、生産管理上の優位性が生まれます。

しかし、その優位性は全ての工程を適切に管理できてはじめて生じるものです。内製化、とくに製造工程の内製化は多額の設備投資を必要とする場合があります。しかし、それだけの設備投資をしたとしても、企業の有限な経営資源で適切に工程が管理されている状態を実現できるかどうかは保証の限りではありません。そのため管理に失敗した場合、企業には工程管理の負担だけが残り、負債化してしまう恐れがあります。 

一方、市場取引によって工程を市場で調達した場合、相手は別の意思決定プロセスをもった企業なので、上流の柔軟性では内製化の場合に比べて劣ります。しかし管理すべき工程が減るため経営資源の限られている企業にとっては負担が減ります。また、市場の変化に応じて、生産をやめる、製造方式を変更するといった場合、単に取引を停止するだけで容易かつ小さい負担で実現できます。内製化された製造工程の変更には多額の設備投資を伴う場合があるのとは対照的です。 

M&Aにおける垂直統合

垂直統合を考えるもう一つの観点はM&A(企業の合併買収)の観点からです。

メーカーが製品を製造販売する過程を考えると、原材料の供給、部品の製造、製品の製造・組立、卸売、小売といった工程があります。このとき、製造業者が、たとえば原材料の供給会社や卸売会社のような異なる工程の会社を買収合併することを垂直統合(垂直型M&A)と言います。

垂直統合のメリットは、新規事業に進出できることです。

例えば、製造のみをおこなっていた会社が卸売会社を買収することで流通業に進出できます。また、上流の工程の会社を買収した場合、自前の調達能力を手に入れられるので、供給の安定化と取引に伴うマージンのカットなどによるコストの低減を期待できます。

下流工程を統合する場合、自前の販路を確保することでマージン等の中間経費の削減が可能です。他の小売店・代理店に対しても、交渉力の向上を期待できます。最終顧客へのアプローチが開けるため、需要や潜在ニーズの発掘といったマーケティング上のメリットも期待できます。

しかし、その一方で従来ノウハウを持っていなかった事業に進出することで、業務効率が低下してかえって調達コストが上昇する可能性がある点には注意が必要です。 

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水平統合とは

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次に水平統合とはどのような戦略であり、どのようなメリット・デメリットがあるのか見てみましょう。

M&Aにおける水平統合は、同じ業種・業態の会社同士のM&Aのことです。M&Aにおいて意図される効果としては、同業種・業態同士でのM&Aであるため、市場シェアの拡大などスケールメリットによる競争力の強化が中心です。水平統合により直接競合他社を減らすことができ、過当競争による収益性の低下を見込めます。

しかし、同時に、一定の市場における競争を事実上制限するような水平統合は、公正な競争による市場と企業の発展を妨げるものとして、独占禁止法や競争法といった経済法による規制や刑事罰の対象となることがあります。 

M&Aにおける垂直統合・水平統合の違い

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M&Aにおける垂直統合と水平統合は、それぞれ目指すところが異なっています。

垂直統合では、サプライチェーンの効率化を目的として、バリューチェーンの上流または下流に向かって事業領域を拡大します。垂直統合では方向性として、供給元(仕入先)である上流の業界に向かう統合と、最終顧客により接近する方向へ進む統合が考えられますが、前者を後方統合、後者を前方統合と称します。

水平統合では、スケールメリットを目的として、同一業種同一業態の企業に対してM&Aを行います。事業規模の拡大を背景にした積極的な設備投資や、市場支配力の強化を見込めます。ただし、統合が一定の市場の公正な競争を損ねる可能性がある場合は、先進諸国を中心に独占禁止法や競争法といった経済法によって禁止されていることが一般的で、場合によっては刑事罰が課されることもあります。 

垂直統合・水平統合のポイント

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次に垂直統合・水平統合を進める上でのポイントを見ていきます。垂直統合や水平統合はそれ自体としては目的ではなく、経営戦略上の手段です。

まず、垂直統合・水平統合のそれぞれの特徴を理解しましょう。それぞれの目的や効果を理解した上で、自社の経営戦略や経営課題と合致した手段を選択しなければなりません。

次に、統合を推進する具体的なスキームを明確にします。株式譲渡・事業譲渡・株式公開買付け(TOB)など、スキームはさまざまな選択肢があり、M&A専門家のアドバイザーを擁してコンサルテーションや仲介を行う専門会社があるので、助言を求めると役に立つでしょう。

企業を買収する場合、買収される企業とのシナジー効果を過大に見積もったり、買収相手の事業や業界をよく知らないために過大な価格で買い取ったりして失敗することが多いようです。そうした失敗を避けるためにも専門家の助言は活用しましょう。 

垂直統合のポイント

まずは垂直統合を進める際のポイントを見ていきましょう。 

戦略として垂直統合を進める際のポイント

製品やサービスが市場に提供されるためにはバリューチェーンに含まれるすべての工程が実行されなければなりません。垂直統合ではこのバリューチェーンに含まれる工程を自社で実行する内製化の度合いを示す垂直統合度を高めます。それによりバリューチェーンから自社が生み出すことができる付加価値の総和を増大させることができ、これが垂直統合の究極的な目的だと言えます。

しかし、市場の変化に対応して製品の製造を中止したり、新技術を導入したり、生産設備を更新したりといった大きな変化が必要になった場合には負債を抱えてしまう場合があります。市場動向次第では統合の結果が負債化しないよう、中長期的な視点で統合の進め方や対象を検討する必要があります。 

M&Aで垂直統合を進める際のポイント

垂直統合では、事業領域が拡大することによる売上向上はもちろんのこと、現存事業とのシナジーにより利益率やサービスの向上、自社裁量でコントロールできる範囲の増大による事業上の柔軟性といった効果が見込めます。

バリューチェーンの垂直統合度を高めることで、外部組織との取引や販売のリスクが低減されるという点からは利益率の安定を期待できます。内製化により自社の裁量でコントロールできる範囲が広がれば事業運営の柔軟性が増し、市場競争力の向上が期待できます。垂直統合で事業が上流または下流へと広がれば従来まで入手できなかった情報が入手できます。市場の需要や潜在ニーズ、潜在的なリスクの察知など、得られるものは大きいでしょう。

しかし、一方で内製化を進めると、自社の経営資源が制約となって生産活動が一定規模以上には容易に拡大できなくなります。その場合、外部組織との市場取引によるスケールメリットに頼った方が、コスト削減効果が見込める場合もあるため、内製化のコストと市場取引によるコスト削減との間で慎重な比較が必要です。

事業領域の拡大は、反面で事業領域のコアコンピタンスがどこにあるのかを不明確にすることがあります。また、経営資源を投入して特定領域を強化しようとしても事業全体の運営とのバランスで不可能な場合も出てきます。このような場合、ブランド力の低下を招くこともあり得るので、中長期的な経営資源とコアコンピタンスの検討が必要です。 

こうした点から、垂直統合にはメリットがあるのは確かであるにせよ、垂直統合の結果コストが増えてしまったり、ブランド力が低下してしまったりしないよう、市場の動向や自社の中長期的経営計画を踏まえて、十分なメリットを得られるかどうか十分な検討が必要です。 

水平統合のポイント

次に水平統合を進める上でのポイントを見ていきましょう。 

水平統合では、スケールメリットを目的として、同一業種同一業態の企業に対してM&Aを行います。事業規模の拡大を背景にした積極的な設備投資や、市場支配力の強化を見込めます。

ただし、同業であることが統合を進める上での潤滑剤となることもあれば、逆に障害となることもあります。統合される側が独自路線を望んでいたり、強力なオーナー株主が影響力の低下を嫌い、対抗策を講じたりする場合があります。

また、統合を進めるスキームとして敵対的TOBを採る場合、一時的であれ混乱が生じることがあり得ます。M&A成立後も遺恨が生じて元買い手企業の従業員と元売り手企業の従業員の間で協力しづらい雰囲気や摩擦が残ることがあります。

M&Aそのものよりも、M&A後のケアとしてのPMIが重要です。 

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まとめ

垂直統合と水平統合はいずれも企業の事業力強化の戦略ですが、その実現の方向性などに違いがあります。サプライチェーンの効率化によるバリューチェーンからの付加価値創造の総和を増大させることを目指すのが垂直統合です。それに対し、スケールメリットによる競争力強化を目指すのが水平統合です。

どちらの戦略にしても統合それ自体は手段であって目的ではありません。それぞれの目的や特徴を理解し、自社の成長戦略や経営課題と合致した手法を採らなければなりません。統合を実行するスキームはさまざまありますが、統合に見込まれる効果の見積もりや適正な買収価格など、専門家の助言を活用すると役立つでしょう。

また、M&Aは成立すれば終わりではなく、M&A後のPMIこそが本番であって、統合の成果があがるかどうかもPMIにかかっていると言っても過言ではありません。そこで発生してくる新たな業務を既存の業務フローにどう取り込むのかは大きな課題です。

拡張性の高い柔軟なERPであればそうした課題に応えてくれるでしょう。ERPの導入については、以下の資料で詳しく解説しておりますので、併せてご覧ください。

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