カスタマーサクセスの事例

 2021.10.21  株式会社システムインテグレータ

米国に3~4年遅れた感じですが、最近カスタマーサクセスという言葉をよく耳にするようになりました。SaaSをはじめとするサブスクモデル全盛時代を迎えて、この取り組みの重要性が強く認識されています。しかし、新しい取り組みなので実際どのように実践すべきかわかっていないケースも多く、すでに取り組んでいる企業も手探りで進めています。

ネット上でカスタマーサクセスの成功事例も増えてきました。しかし、カスタマーサクセスの意義や成果が中心で、どのように取り組んだのか具体的な内容までは公開されていません。そこで当社の取り組みを、カスタマーサクセスを実践する際の参考事例として公開したいと思います。

オンプレミスとSaaSの組織の違い

図1はオンプレミスとSaaSビジネスの典型的な組織体系です。組織を営業系と開発系に大別すると、マーケティングと営業は営業系、導入サポートとソリューション開発、製品開発、保守サポートは開発系に属するケースが多いでしょう。オレンジで示したプロフィットセンターは自部門で売上を上げて利益を稼ぎます。一方、ブルーのコストセンターは売上を計上しません。

このモデルにおける導入サポートは、製品やサービスを導入してユーザーが利用できる状態にするための有償のサービスです。サポートがなくても使える製品であれば、これらの部門は不要です。また、ソリューション開発は、製品・サービスを既存システムに連携させたり、カスタマイズしたりする業務を担います。こちらも製品・サービスの特性上そのようなニーズがなければ不要な部門です。

CS_case_01図1:オンプレミスとSaaSの組織

両者を比較して違う点が2つあります。

1つは、オンプレミスでは保守サポート(カスタマーサービス)部門がプロフィットセンターであるのに対し、SaaSではコストセンターになっていることです。オンプレミスでは保守料をもらって、それを原資として保守サポートを行っているのですが、SaaSでは毎月のサービス利用料に保守分も含まれているので保守サポート部門では売上を計上しません。

もう1つが、SaaSではカスタマーサクセス部門が追加されていることです。もちろん、オンプレミスでもカスタマーサクセス部門を設けている企業もありますし、これから増えると予想されます。しかし、チャーンレート低下が最重要課題となるSaaSに比べると現時点ではレアケースといえるでしょう。

カスタマーサクセスチームの位置づけ

カスタマーサクセスチームは、営業系と開発系のどちらに所属するのでしょう。これは企業や製品によってどちらにもなりうると思います。積極的に顧客にアプローチし、その結果チャーンレートを下げて売上を拡大するという役目から営業系に含めるという考え方もあります。

一方、導入サポートや保守サポートとカスタマーサクセスは、顧客が製品・サービスを利活用できるように支援するという同じ役割を持っています。その点から開発系に置くという考え方も一理あります。そうすることで、担当者のスキルセットが近いものになるのでローテーションすることもできます。導入サポートとカスタマーサクセスと保守サポートの境界線を決め、顧客の利活用という共通の目的に向かって連携してサポートを行えるのです。

専任か兼務か

カスタマーサクセスは大切である、今では誰もがそれを認めています。しかし、そうは言ってもコスト部門なのでやたらに人を増やして利益を圧迫するわけにもいきません。考え方としては、「カスタマーサクセスにかかるコスト」より「チャーンレート低下による利益拡大」の方が大きければ、コストをかけてカスタマーサクセスを厚くすべきということになります。

CS_case_02

図2:投資対効果

本当にチャーンレート低下の効果が得られるかは期待するしかなく、効果が見えるまでタイムラグがあります。そのため、最初から部門やチームを作るより、既存顧客担当の営業がカスタマーサクセスの役割を兼務で行ったり、カスタマーサービスが役割を拡大して行ったりして効果を見定めるアプローチも当然だとは思います。ただ、私の経験ではいったん専任を置いたら、やはりその効果は大きいと実感できるはずです。また、カスタマーサクセス担当者だけでなく、周りのスタッフもその重要さを強く共感してくれるといった意識の変化も生まれます。その結果、担当を増やすことはあっても、専任体制を打ち切るというケースは少ないと思っています。

当社の取り組み

当社は、創業以来さまざまなパッケージソフトウェアを開発・販売している会社です。クラウドの時代となり、当社も以下の製品をSaaSとして提供するビジネスモデルに切り替えており、それぞれの事業でカスタマーサクセスを重要テーマとして取り組んでいます。

  • プロジェクト管理システム「OBPM Neo」
  • 設計支援ツール「SI Object Browser Designer」
  • プログラミングスキル判定サービス「TOPSIC」
  • ERP「GRANDIT SaaS」
  • アイデア創出プラットフォーム「IDEA GARDEN」
  • カスタマーサクセス支援サービス「VOICE TICKETS」

上記のうち、SaaSを開始してから日が浅いプロダクトは、営業チームがカスタマーサクセスを兼務で行っています。一方、OBPM Neoのように数年前からSaaSを提供していて、ユーザー数も多いプロダクトは専用チームを作って取り組んでいます。

カスタマーサクセスの取り組み内容

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カスタマーサクセスチームは、実際にどのようなミッションを行っているのでしょうか。カスタマーサービスとどのあたりが違うのでしょうか。当社の事例をベースに主な取り組み内容を解説します。

(1)解約予備軍を抽出

B to CでもB to Bでも、こちらを向いているユーザーとコミュニケーションを取る方が楽です。しかし、カスタマーサクセスの役割はまったく逆です。ロイヤリティの低いユーザーを解約予備軍として探し出し、懸命にフォローする必要があります。

では、どのように解約予備軍を見つけ出せばいいでしょうか。サービスによって解約の予兆は異なりますが、一般に解約に至るユーザーは利用率が低いです。ヘビーユーザーならロイヤリティが低いわけがないと考えれば合点がいくと思います。そのため、最終ログイン日時が古い、ログインユーザー数が少ない、ある機能の利用回数が少ないなどをログで検知し、解約リスクの高い順にリストアップするのです。

(2)状況をヒアリングしてコンタクト履歴に記録

解約リスクの高いユーザーに対しては、現在、どのような課題や不満を持っているかをヒアリングします。解約予備軍とされるような状態なので、きちんと話してくれる顧客ばかりとは限りませんが、根気よく「カスタマーのサクセスを本気で支援したい」思いでコンタクトを取り続けると、次第に本音を話してくれるようになります。根気よくというのは何回もという意味でもあります。もう30年も前のドラマですが「101回目のプロポーズ」の精神で行きましょう。そして、毎回きちんとコンタクト履歴に記録して、カスタマーサクセスだけでなく全体で共有すると他の部門に協力を依頼する際もやりやすくなります。

(3)要望に対応、誠意をもって回答

聴きとった要望やクレームに対して、カスタマーサクセスチームだけで対応できることもあります。しかし、一般には営業や導入支援、製品開発、保守サポートなど各部門の協力を得ないと解決できないことがほとんどです。その場合、単に「ユーザーがこんなこと言っている」と投げるだけでなく、自分たちが顧客の代弁者であるという意識を持って社内調整するように心がけましょう。そういった姿勢はユーザーにも伝わります。もちろん、すぐに対応できないことも山のようにありますが、誠意を持って回答すればわかってもらえるものです。

(4)エンドユーザーにレクチャー

前述のヒアリングは、導入担当者が対象です。彼らもまたエンドユーザーがきちんと使いこなせていない、エンドユーザーが使ってくれないというこちらと共通の悩みを持っています。であれば、彼らに代わってエンドユーザー教育するのはいかがでしょうか。実はOBPM Neoはここに相当注力していて、さまざまな企業でエンドユーザーに対する直接的なレクチャーを無料で行っています。この活動によって、エンドユーザーの利用率を上げる(真のカスタマーサクセス)ことができ、また、導入担当者にも感謝されます。最初は、この提案に載ってくるユーザーはそれほどいなかったのですが、1年くらい経過するとあちこちから依頼されてスケジュール調整が大変な状況になりました。

(5)エンドユーザーの声を直接聴く

究極のところは、エンドユーザーが何につまずいているのか、何を不満に思っているのかを知らないと問題を解決できません。そこで、当社はエンドユーザーの声を直接聴くことのできるカスタマーサクセス支援サービス「ボイチケ」を開発し、OBPM NeoやIDEA GARDENなどのサービスに組み込んでいます。どのサービスでも想定以上に声があがってきて、なるほどと思うことが満載でとても役に立っています。

ボイチケは、利用者の声を受け取りやすくするだけでなく、声をチケットとして蓄積してステータス管理ができます。また、チケットに対してコメントを返して双方向コミュニケーションも行えるので、ユーザーの意図を確認したり、ユーザーの不満を解消したりすることで満足度をかなり高める効果が出ています。

(6)短いサイクルでリリースする

一般に製品やサービスの開発ロードマップには次の3つの要素があります。

  1. マーケットニーズを取り入れる
  2. ユーザーの要望に応える
  3. 開発チームのやりたいこと・やるべきことを実施する

1のマーケットニーズと2のユーザーの要望は似ています。同じものもありますが、別のことも多いでしょう。1は新規ユーザーを獲得していくうえで重要なものが多く、2はカスタマーサクセスに欠かせません。一方で3もそれなりに多く、セキュリティ強化やリファクタリング、DevOps導入など、開発は開発でやりたいことが山ほどあります。

カスタマーサクセスの仕組みが不十分で利用者の声をきちんと聴けていない場合、開発ロードマップの項目は13が主体となります。しかし、ボイチケなどを利用してユーザーの声を聴きだすことができると、今度は2の量が非常に多くなります。ユーザーは自分のあげた要望を真摯に受け取ってもらえるととても喜び、ロイヤリティがグーンと跳ね上がります。そのため、ユーザーの要望にはできるだけ応えてあげたいのですが、そればっかりというわけにもいきません。結局のところ優先順位を付けて13をバランスよく対応することになります。

製品販売の際は、8カ月~1年サイクルでバージョンアップするというのが基本的な機能改善サイクルでした。しかし、SaaSではバージョンアップという概念は消え去り、2週間から1カ月単位でリリースアップします。小さな改善でもいいので、こまめにリリースアップすることが重要です。それにより、ユーザーは進化し続けているサービスであると安心し、たとえ現時点で実装できていない機能に関しても将来に期待してくれます。

そのために必要な仕組みがCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)やDevOpsです。SaaSの場合は、こまめな改善を積み重ねるためにCI/CDやDevOpsが必須となるのです。

カスタマーサクセスの成果

カスタマーサクセスの目的は、チャーンレートの低下です。では、具体的にどれくらい効果があるのでしょうか。当社のOBPMクラウドサービスの事例では、カスタマーサクセス活動前の月次チャーンレートはだいたい2~2.8%くらいありました。このときの月次チャーンレートの目標値は年次10%、これを12カ月で割った月次チャーンレート目標を0.84%としていました。

カスタマーサクセスチームを作って活動した1年目は微減にとどまりましたが、カスタマーサクセス2年目に効果がはっきりと表れ、目標値0.84%を下回るようになりました。つまり、カスタマーサクセスによってチャーンレートが2%以上も下がったわけで、これを金額換算すると相当の利益が生まれたことになります。

まとめ

カスタマーサクセスとして具体的に何を行うかは各社ごと、製品・サービスごとに異なります。どこも、自分たちなりのカスタマーサクセスを模索しながら最適解を求めている状態だと思います。今回、当社の取り組み内容や成果を事例として紹介しましたが、これがみなさんの参考になれば何よりです。

(梅田 弘之)

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