ビジネスシーンにて、近年「パーパス(Purpose)」という言葉が多用されるようになりました。パーパスは英語で「意図」や「目的」という意味になりますが、ビジネスの場面では異なる意味合いを持ちます。
この記事では、パーパスの定義や策定のメリット、企業による実際の事例などを紹介します。また、パーパスと類似した言葉である「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」との違いも解説します。
パーパスとは
ビジネスシーンでのパーパスは、「企業の志」や「存在意義」を表しています。ここでは、パーパスの意味や位置づけについて解説します。併せて、パーパスから派生した言葉やMVVとの相違点も見ていきましょう。
パーパスの定義
前述したように、パーパスは社会的な存在価値を表す言葉です。「何のために自社は存在しているのか」「なぜその事業をやるのか」といった根本的な問いかけに対し、答えとなるものがパーパスそのものといえます。つまりパーパスは、企業の指針として事業を行う理由となるのです。
企業が経営を行う以上、困難な状況に遭遇したり、選択を迫られる分岐点に立たされたりする時があるでしょう。パーパスはそういった場面でもゆらがない軸となってくれます。なお、パーパスの策定後は基本的に内容は変更されません。
パーパスとMVVとの違い
MVVとは、「ミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value)」の3つの要素から成り立っている言葉です。順番に「使命」「理想像」「価値観」という意味になります。それぞれの要素から、パーパスとの違いについて見てみましょう。
ミッション
ミッションは企業として果たすべき使命のことです。パーパスと混同されますが、パーパスが存在意義を示すのに対して、ミッションはパーパスを実現するために何を行うのかを指します。パーパスは「なぜ(Why)」、ミッションは「何(What)」として対比される点が特徴です。
ビジョン
企業としてこうなりたいと考える未来がビジョンです。ビジョンによって企業そのものだけでなく、個人やチームの目標が具体的になるため、パーパスがビジョンに含まれているケースも見受けられます。パーパスが示す「なぜ(Why)」に対し、ビジョンは「いつ(When)」「どこで(Where)」を表すといえるでしょう。
バリュー
バリューは企業としての価値観を表しています。ミッションやビジョンを設定したうえでの行動指針といえるでしょう。パーパスに対して「どのように(How)」を示します。
パーパスとMVVの違いを述べましたが、MVVはパーパスから構築されていくもののため、併せて理解しておくとよいでしょう。MVVについては、以下の記事で詳しく解説しています。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?重要性や策定のポイント、事例を解説
パーパスの関連キーワード
パーパスには、類似した意味を持つ言葉や、派生した言葉がいくつかあります。パーパスと混同されることがある言葉について、意味の違いを把握しておきましょう。ここでは、パーパスに関連する言葉を6つ紹介します。
パーパス経営
パーパス経営の概念は2010年前後に生まれたとされており、名前の通りパーパスを基軸にした経営を指します。パーパスをもとに企業活動を行いながら社会貢献をするのが目的です。例えば食品の製造販売を行う企業の場合、農家への技術支援や医療機関に製品を寄付するといった活動が挙げられます。パーパス経営はパーパスと同様に、社会とのつながりを重視している点が特徴です。
経営理念
経営理念とは、経営者の考えや価値観を表したものです。経営理念とパーパスの概念は似ていますが、社会的なつながりや内容の変化の有無に違いがあります。パーパスは社会的な存在価値を示すものですが、経営理念は必ずしもそうではありません。パーパス策定後は内容を変えることは基本ありませんが、経営理念は経営者が交代した場合などに変更されることがあります。
クレド
クレドはラテン語で「信条」を意味する言葉です。MVVのバリューを提供するための行動指針を表しており、クレドとバリューをまとめる場合もあります。クレドは従業員の行動に焦点を当てており、パーパスは社会的な存在価値を表す点が異なります。
パーパスステートメント
策定したパーパスを共有・発信するために、わかりやすく文章化してまとめたものがパーパスステートメントです。パーパスステートメントの文章は、メッセージ性を含みながらも短くて覚えやすいのが特徴です。
パーパスブランディング
パーパスに基づいたブランディングを行うことで、共感を集めて社会的に広く認知されることを狙う手法を指します。利益拡大を主とした従来のブランディングとは異なり、パーパスブランディングは消費者の共感を得ることによる認知拡大が目的です。
パーパスドリブン
企業が起こす行動がすべて、パーパスを起点にしている状態を表す言葉です。行動の理由とパーパスを照らし合わせているともいえます。パーパスによって社内での共通認識が生まれると、立場や役職が異なる従業員同士でも同じ目線で仕事に取り組めます。そのため、パーパスドリブンは従業員の意識向上・組織全体の成長に欠かせない要素といえます。
パーパスの必要性
パーパスは近年のビジネス環境における変化によって注目を集めています。ここでは、パーパスが必要とされるようになった背景について、価値観の変化・多様性への対応の2点に焦点を当てて解説します。
社会の価値観・投資家の価値基準の変化
2015年に持続可能な開発目標であるSDGsが採択され、企業はただ利益を出すだけでなく社会的な貢献も求められるようになりました。パーパスが広まった背景として、企業に求められる価値観の変化が挙げられます。
1980年から1995年頃に生まれたミレニアル世代は、利益や規模で就職先の企業を選ぶのではなく、社会貢献度や企業文化を重視する傾向が顕著です。また、投資家が企業を評価する基準も変化しており、持続的な社会やESGへの関心が高まっています。投資家は従来、収益性を一番の価値基準として重視していましたが、近年は企業の社会的意義やパーパスの策定にも注目するようになりました。
多様性のある組織・人材への対応
以前は終身雇用や新卒一括採用、従業員の国籍は日本人というのが国内企業のスタンダードでした。しかし、昨今では組織や人材のグローバル化・多様化が進み、中途採用が増加して終身雇用にこだわらなくなっています。
そのような環境で、揺らぐことのない企業の指針として活躍するのがパーパスです。多様化によって異なる価値観や判断基準を持った従業員が増加するなか、パーパスは行動の指標となってくれます。グローバル化やダイバーシティが求められるようになった現代社会で、パーパスの重要性はますます高まるでしょう。
パーパス策定のメリット・効果
近年、必要性が高まるパーパスですが、パーパスを策定することでさまざまなメリットを得られます。パーパスの効果は主に、「ステークホルダーから評価や信頼を得られる」「従業員のエンゲージメントが向上する」「イノベーションが生まれやすくなる」などです。ここでは、それぞれのメリットについて、どのような効果が得られるのかを解説します。
ステークホルダーからの評価獲得
企業がパーパスを掲げることにより、顧客や取引先といったステークホルダーから信頼を得やすくなります。利益ばかりで指針を掲げていない企業よりも、社会貢献やそのための行動を明示している企業の方が支持を得やすいのは当然といえるでしょう。ステークホルダーの増加で企業の利益が上がり、イメージの向上、さらには企業の成長にもつながります。
昨今、ステークホルダーが関心を向けている項目が「ESG」です。ESGとは「Environment Social Governance(環境・社会・ガバナンス)」の略語で、内容は再生可能エネルギーや二酸化炭素の削減、ダイバーシティの推進、情報の開示などさまざまです。パーパスを策定する上で、ESGへの配慮も重要な要素といえるでしょう。
従業員のエンゲージメント向上
従業員のエンゲージメントが向上する点もパーパス策定のメリットです。パーパスを明示することによって、企業の存在意義だけでなく従業員の存在意義が明確になります。存在意義がわかるようになれば、従業員にとってはどのように働くべきなのか、自身の役割を自覚できるため自発的に行動できるようになります。また、携わる業務がどのように社会貢献できているのか実感できれば、モチベーションアップにもつながるでしょう。
さらに、パーパスは人材の採用に関しても有効です。広報としてパーパスを宣伝することで、内容に共感した求職者が集まりやすくなるでしょう。企業に合う人材を見つけやすくなるため、従業員の定着率向上にもつながります。特に、中途採用の応募者はパーパスを重要視する傾向が顕著です。
企業の改革やイノベーションの創出
パーパスの策定は、企業の意思決定や、新たなイノベーションの創出といった効果も期待できます。企業としてパーパスを明確に掲げていれば、重大な選択で岐路に立たされたときでも迷うことはないでしょう。また、パーパスは企業側と従業員で方向性を統一でき、組織として一体感が生まれます。同じ目標を持てれば、新しいアイディアや製品、新規事業などさまざまなイノベーションも生まれやすくなります。パーパスの策定は環境の変化とともに、企業改革や業務改善などにもつながるのです。
パーパス策定のポイント
パーパスは、社内だけでなく社外にも発信する場合があります。内容を理解してもらったうえで共感を得るためには、ただ企業の存在意義を明確にするだけでは不十分です。自社のパーパスを明確にし、社会的な課題の解決についての行動や従業員の共感を得られる内容にする必要があります。
パーパス策定の際は、以下のポイントに注意しましょう。
社会的意義と自社の活動を両立できる内容にする
パーパスは社会的な存在意義と企業活動が両立できるような内容でなければなりません。また、企業として実現可能な内容を選ばなければ、パーパスはうまく機能しないでしょう。従業員のモチベーションアップや企業力向上につなげるためにも、社会的な課題の解決に貢献できる行動や自社の強みを盛り込み、従業員から共感を得られる内容にする必要があります。
社会的な存在意義や社会貢献について、SDGsやESGなどへの取り組みを定めているパーパスもありますが、これらをそのままコピーした内容にならないように注意しましょう。よく検討したうえで策定しなければ、他社と似通ったパーパスになってしまう恐れがあります。
わかりやすく共感できる言葉で表現する
パーパスの内容は、わかりやすい言葉、共感性の高い文章で策定しましょう。まずは、パーパスを言語化した声明のパーパスステートメントを作成します。
近年は多くの企業がパーパスステートメントを公開しているため、短い文章で覚えやすく、共感できるメッセージ性も含ませなければなりません。どのような企業でどのような存在意義があるのか、社会貢献として何ができるのかを理解しやすくまとめます。可能であれば、自社独特の言い回しやユニークな言葉を使用するようにしましょう。
パーパスの事例
パーパスの内容は企業によってさまざまですが、策定に取り組む企業も近年増加しています。では、実際に企業はどのようなパーパスを策定し実践しているのでしょうか。ここでは、パーパスを掲げている企業の成功事例を紹介します。
富士通株式会社
電子デバイスの製造販売や通信システムなどのサービスを提供している富士通が策定するパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。
富士通が持つテクノロジーを最大限に駆使して、環境問題といった社会的な課題の解決を推進します。富士通の組織的な能力を「Fujitsu Uvance」として活用し、持続可能な社会を作り上げていくのが目標です。パーパスを通じた活動として、富士通ではスーパーコンピュータとAIを組み合わせた津波浸水予測技術の開発が行われています。
ネスレ日本株式会社
食品飲料メーカーのネスレが掲げるパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代すべての人々の生活の質を高めていきます」です。
ネスレのグローバルな活動として、農村の開発支援や主力製品のパッケージをプラスチックではなく紙にする、といった取り組みが行われています。2025年までに包装の100%をリサイクルもしくはリユースができるようにするといった目標も掲げており、そのための研究所も設置されました。これらの活動のほとんどが、パーパスをもとに進められています。
味の素株式会社
日本の食品メーカーである味の素では、「アミノサイエンス®で人・社会・地球の Well-being に貢献」することをパーパスとしています。
パーパスをもとに、環境負荷の削減や健康寿命の延伸といった活動を積極的に行っています。例えば、食材を使い切るレシピの提案や減塩プロジェクトなどです。味の素では、社会価値と経済価値を新たに作り出すための取り組みとして「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」を掲げており、現在もこのASVが経営の基本方針となっています。
まとめ
パーパスは企業活動の方向性を決定する際に、基軸として重要な要素になります。新規事業を企画する際に立ち返る原点として、パーパスを明確にしておくことが成功へとつながるでしょう。
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