変わりゆく時代の流れや市場の需要に応え、自社へ新たなイノベーションを生むために「社内ベンチャー制度」が注目されています。社内ベンチャー制度では、新規事業の立ち上げに必要な資源を自社でまかなえるため、企業が新しい収入源を確保できる点でも魅力的な施策です。事業の立ち上げを通じて、メンバーは既存事業で得られなかった多角的な目線が養えるでしょう。
今回は社内ベンチャー制度の概要やメリット、成功に必要なポイントや事例を紹介します。
社内ベンチャーとは
社内ベンチャーとは「社内起業」とも呼ばれる、企業内に設置される独立した裁量を持つ組織のことです。新規事業を打ち出す目的で立ち上げられ、世の中の移り行くトレンドや技術を取り入れて利益を拡大したり、企業に風土改革をもたらしたりする点で期待されています。従業員の主体性やモチベーションを高める効果や、企業の資金活用手段の側面もあります。
社内ベンチャーと混同されやすいものに、「スピンアウト」が挙げられます。スピンアウトでは企業と事業を切り離しますが、社内ベンチャーは企業内の組織として位置づけるのが相違点です。なお、スピンアウトに関しては、こちらの記事も併せてご覧ください。
スピンアウトとは?メリット・デメリット、実施のポイント、事例を解説
社内ベンチャー制度導入の目的
社内ベンチャーによって自社にもたらされるイノベーションが、具体的にどのような変化を指すかイメージできる方は少ないでしょう。導入による主な目的や期待されることとして、以下の5つが挙げられます。
利益の拡大
IT技術の飛躍的な発展や人々の価値観が目まぐるしく変化するなか、企業が既存事業を継続するだけでは利益を生み出しにくいのが現実です。そこで、世の中の変化に応じて市場での新たな収入源の確保・利益の拡大を目的に、社内ベンチャー制度を利用した新規事業の立ち上げが注目されています。収入源を複数持つことで、既存事業に依存し続けるリスクを抑えられるでしょう。
人材の育成
社内ベンチャーの参加メンバーには、アイディアを具現化するスキルが欠かせません。事業として軌道に乗せる過程で、自分も知らなかった強みに気付けるケースがあります。既存事業では得られなかった経験を通じてメンバーは急成長し、困難を乗り越えるなかでビジネスパーソンとしてのタフさや経営者目線を養えるでしょう。社内ベンチャーが軌道に乗ることで金銭的な利益拡大に加え、チャレンジ精神を持った豊かな人的資源も蓄えられます。
ポジティブな企業文化の醸成
旧態依然とした社内特有の文化や慣習は、企業の成長の足かせとなっているケースが少なくありません。社内ベンチャー制度のメリットは、従業員にチャレンジ精神を芽生えさせ、ポジティブな企業文化が醸成される点です。企業が継続的に成長を続けるには、変化の激しい市場やトレンドといった外的要因に逐一対応していく姿勢が必要です。社内ベンチャーへの関わりが従業員に良い刺激となり、組織全体にポジティブな企業文化が根付いていくでしょう。
資産の有効活用
社内ベンチャー制度は、自社の資産を資産を有効活用し、さらなる利益拡大への投資先としても使えます。大手企業を中心に有用性が見いだされており、既存事業で得た利益の有効活用と同時に、効率良く事業開発を進めるよう動いています。
リスク分散
市場のニーズは常に変化し続けており、現在安定している企業でも今後も利益を生む事業が続くとは限りません。現状維持を続けていては、市場の変化や将来業績不振に陥ったときの対応が難しく、経営危機に陥るリスクがあります。複数の事業を展開しリスク分散しておくことで、どこかの事業が不振でも他の事業で補完し、組織全体の業績を安定させられるでしょう。
社内ベンチャー制度のメリット
社内ベンチャーには、社内の士気が高まることで社内の新たな刺激となり、従業員のやりがいやモチベーション・収益性向上と共にさらなる事業拡大といったメリットが期待できます。
従業員のモチベーション向上
長い間、事業に変更を加えずにいると、日々同じような業務の繰り返しと単調化により、従業員のモチベーションが下がりやすい環境になってしまいます。しかし、社内ベンチャー制度に参加すれば、個々のモチベーションやスキルアップが可能です。将来的に元の業務に戻ったとしても、社内ベンチャーへの参加によって養われたスキルを役立てられるでしょう。
新たな収益源を得られる
既存事業がうまく進んでいる企業でも、社内ベンチャーで生まれた新規事業を収益性を上げられるまでに成長させるのは難しく、時間やコストがかかってしまうのは事実です。また、規模の大きな企業の場合は、有益な資金活用先を見つけられずに持て余しているケースもあります。しかし、収益源の獲得に向け社内ベンチャー制度に資金を投入することは、市場ニーズに合った収益の獲得につながるチャンスとなるため、長期的に見て有効な手段です。
リソースが揃っている
新規事業の立ち上げを考えた場合、安定した企業経営に必要とされるリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)の選定から調達までの体制整備が必要です。社内ベンチャーの場合は、企業のリソースやノウハウ・取引先やブランドネームを活用しながら事業を進められます。資金繰りを障壁とせず、挑戦的なミッションにも取り組みやすい点がメリットです。
社内ベンチャー制度のデメリット
社内ベンチャーはリスクも伴います。以下に紹介するデメリットを踏まえ対策しましょう。
失敗する可能性がある
社内ベンチャーは多産多死であり、1000ある立ち上げの中で成功するのはわずか3つともいわれます。成功すれば大きな恩恵を期待できる反面、社内ベンチャーで成功する難易度は高い傾向です。そのため、失敗すれば当然企業は多額の資金を失います。社内ベンチャーのために人材雇用を行っていた場合、失敗すれば企業の経営を圧迫し、共倒れになるリスクがあるでしょう。
従業員のモチベーションを維持しづらい
社内ベンチャー制度に参加するメンバーは低リスクで起業経験を得られますが、立ち上げ当初のモチベーションを維持する難しさがあります。経営陣や周りからのプレッシャーや失敗が許されない風土がある場合は、挑戦の足かせとなるでしょう。組織の後ろ盾は安心感をもたらす反面、失敗すれば今後の仕事へのやる気を下げるリスクがあります。逆に社内に新規事業の立ち上げをサポートする雰囲気がなければ、孤軍奮闘状態でモチベーションが下がる恐れもあります。
資金や時間をかける必要がある
既存事業と異なる分野の社内ベンチャーの場合、新事業にこれまでのノウハウを反映できるとは限りません。社内ベンチャーは、順調に進んでいても収益を確保できるよう成長するまで数年かかるとされ、うまくビジネスモデルを確立できなければ資金と時間を失ってしまいます。
社内ベンチャー設立の方法
社内ベンチャー設立の手法として、2つの手法をご紹介します。自社の規模や風土に合った方法を採用すれば、スムーズに社内ベンチャーを設立できるでしょう。
トップダウン型
トップダウン型は経営陣主導型とも呼ばれ、経営陣からの指令によって社内ベンチャーを設立するものです。メンバーと経営陣が密接な関係にあり、双方の話し合いを基本として事業の発案を進めます。
経営陣の許可がスムーズに下りればスピード感を持って事業が進む反面、許可がなければ事業を進められず、既存事業と異なる事業を生み出しにくいのが特徴です。また、社内ベンチャーに参加するメンバーが経営陣に忖度してしまわないような雰囲気作りも求められます。
ボトムアップ型
ボトムアップ型は従業員主導型と呼ばれています。社内ベンチャーのメンバーがアイディアや企画を打ち出し、社内選考やメンバーでの選定によって事業を進めていくものです。社内ベンチャー制度を導入している多くの企業では、ボトムアップ型が採用されています。
経営陣との接点が薄い分、革新的なアイディアは生まれやすく、メンバーのモチベーションアップも期待できるのが特徴です。ボトムアップ型は会社機能として成立する裁量を与え、他部署との連携をスムーズに取れるようにするのがポイントといえます。
社内ベンチャー立ち上げの際のポイント
社内ベンチャーが軌道に乗れば企業に大きな収益をもたらすことも可能ですが、立ち上げにはいくつかのポイントや注意点があります。収益性の高い社内ベンチャーを効率良く設置するためにも、ここで紹介する内容を十分に把握しておきましょう。
経営陣は介入しすぎない
社内ベンチャーに経営陣は介入しすぎず、サポートを中心とするのが成功のコツです。経営陣の行き過ぎた介入やマネジメントは、社内ベンチャーの強みを打ち消してしまうでしょう。そのため、経営陣の代わりに親会社や協力会社、経験者や同じような事業を行っている部署からのサポートが大切です。サポート体制を十分に用意し、社内ベンチャーが軌道に乗るよう支える姿勢が理想といえます。
ビジョン・ミッションを明確にする
社内ベンチャーの設立時に高いモチベーションを持ってスタートしても、事業が思うように進まなかったり、予想外の障壁が立ちはだかったりすることがあります。困難に直面したときこそ指針となるのが「ビジョン(目指すべき姿)」「ミッション(使命・存在意義)」「バリュー(行動価値・価値基準)」「社内外に向けたコミットメント(責任・約束)」です。これらを事業の根幹として策定しておくことで、目指す方向性から逸れることなく一致団結して事業を展開できます。
自社内の既存事業とは切り離す
社内ベンチャーは企業内の組織という位置付けですが、既存事業とは切り離して独立させておくことが大切です。特に、経営部門や経理部門などのコアな部門の切り離しは、事業を展開するスピードの足かせとならないよう、かつ事務管理の煩雑さを解消するためにも重要です。新規事業の開発役員や部長は個人に任命し、社内ベンチャー内の人事権はベンチャーの責任者に委ねましょう。
従業員が参加しやすい環境を用意する
従業員の裁量権限が乏しい企業の場合、事業においてある程度の成果は出ていても、従業員の主体性が育っていないケースがあります。組織では団結力だけでなく、同時に個人の主体性も高めることで職場の雰囲気も改善し、個々のやりがいや帰属意識が向上します。
しかし従業員に主体性がない場合、社内ベンチャーを担う人材を社内公募してもなかなか応募してもらえないでしょう。何かあった場合のサポートやアフターケアなど、従業員が安心して参加できる環境を用意することが重要です。
失敗と撤退の判断基準を設定しておく
社内ベンチャーは成功確率を上げることも重要ですが、立ち上げの際にセーフティネットとして撤退の判断基準も設定しておきましょう。やみくもにコストを投入しても、成功できる見通しがなければ自社に与える損失は膨れ上がる一方です。成果が出ない場合の撤退基準を決め、損失が生まれるのを防ぐと同時に、安心してベンチャーに取り組める環境が重要になります。
社内ベンチャーの事例
最後に、社内ベンチャーの事例を2つ紹介します。自社で社内ベンチャーを立ち上げる際の参考にしてはいかがでしょうか。
株式会社スマイルズ
株式会社スマイルズの遠山正道氏は、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を立ち上げ、2023年3月現在で全国各地に50店舗、関連飲食店も多数展開する企業に成長させました。遠山氏は新卒で三菱商事に入社しましたが、「生活に身近な仕事がしたい」と自ら日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社に出向し、在籍中に「Soup Stock Tokyo」を立ち上げました。市場の合理性に従った事業ではなく「やりたいことをやる」という理念のもと多様な事業に出資しており、3年で50の新規事業を作ることを目標としています。
株式会社ルネサンス
全国にフィットネスクラブを展開する株式会社ルネサンスは、大日本インキ化学工業(現DIC)の社内ベンチャーとしてスタートしました。ルネサンスは当初正式な事業ではなく、創業者斎藤敏一氏が趣味で行っていたテニスサークルからバブル崩壊などの転機を経て、現在の会社として設立されました。「人生100年時代を豊かにする健康のソリューションカンパニー」を長期ビジョンに掲げ、現在は高い成長率を見込めるアジア市場が戦略市場です。今後は事業を通じて、さらに海外市場での健康支援に向けた社会づくりに貢献していくでしょう。
まとめ
社内ベンチャー制度は、自社の後ろ盾の下、従業員が貴重な経営者経験を培うことができる仕組みといえます。さまざまなメリットが得られる一方、注意すべき点もあります。この記事で紹介した5つのポイントを意識して社内ベンチャーに取り組みましょう。また、従業員が安心してチャレンジできるよう、サポート体制を整え、失敗した時のセーフティーネットを準備しておく必要があります。
社内ベンチャーを成功に導くには、画期的なアイディアを生み出すことが重要です。新規事業のアイデア出しに関して資料をご用意していますのでぜひご覧ください。
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