カスタマージャーニーとは、マーケティング戦略におけるフレームワークの一つであり、顧客(カスタマー)による商品やサービスの検討段階から購入までの遍歴(ジャーニー)を示したものです。マーケティング戦略を立てる際、カスタマージャーニーを用いて一連の購買行動を可視化して整理します。昨今は顧客の購買行動も多様化しており、マーケティング戦略を行ううえでも顧客のニーズ視点が重視されているため、ニーズを詳細に整理する重要性が増しています。
カスタマージャーニーは、顧客について理解する際に有効な手法とされていますが、マップを作成するコツやメリットにはどのようなものが挙げられるのでしょうか。この記事では、カスタマージャーニーに焦点を当て、成果につなげるマップ作りのコツを解説していきます。
カスタマージャーニーとは
商品購入やサービスの申し込みまで、1つの行動の背景にも心理状態の遍歴がいくつかあります。カスタマージャーニーは、顧客が商品やサービスを購入するまでの心理状態の過程を、旅に例えた概念です。顧客の行動パターンに合わせてカスタマージャーニーマップを作成し、個々のタッチポイントを分析することで、ポイントごとのニーズや疑問点が生じるタイミングに合わせた対策ができるのです。なお、タッチポイントとは、企業の顧客との接触機会や場所、手段を指します。
マーケティング戦略の検討には、ペルソナ(ユーザー像)を設定した顧客のニーズ分析が有効ですが、情報として十分とはいえません。カスタマージャーニーでは、マップの作成過程においてペルソナ設定よりも、顧客の心理状態の分析を詳細に行います。そのため、ペルソナ設定で把握しきれない情報も補完できるのが特徴です。
以下の記事では、カスタマージャーニーのほかにも、マーケティング戦略に役立つさまざまなフレームワークを用途別にご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
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カスタマージャーニーを作成する目的
カスタマージャーニーは、企業側が顧客との接点や介入のチャンスとなるタッチポイントを見極め、都度適切なタイミングでアプローチを行いやすくすることを目的としています。一度作成するだけではなく、定期的に更新しながら活用していくフレームワークです。
現代では、テクノロジーの進歩によって情報収集の面でも精度や量などが向上しつつあります。一方で、情報を得る手段や消費者ニーズが多様化しています。そのため企業は、「よい商品」を作るだけでは継続的に利益を獲得することが難しい現状にあるのです。
このような背景から、多様化する消費者のニーズを的確に分析できるカスタマージャーニーマップの活用が求められるようになりました。単一の購買行動を徹底的に分析することで、質の高い継続的な顧客体験価値(CX)の提供へと昇華させることが期待されています。
カスタマージャーニーは現代でも使えるか
従来、消費者の購買行動の過程はAIDMA(アイドマ)と呼ばれ、ジャーニー型(認知→関心→興味→記憶→購買行動)で示されてきました。しかしSNSなどの普及に伴い、人々が情報を入手する経路は多様化しています。最近見られるケースとしては、商品とはまったく異なる情報を見ている時に、ふとしたきっかけで商品情報を得てそのまま購買に至るパターンです。
例えば、ある特定の著名人やインスタグラマーなどのSNSを閲覧していて、その人物がSNS上でおすすめしていたことをきっかけに、商品やサービスを知るとします。このとき、以前から好意的に気になっていた人がおすすめしていたというハロー効果も相乗し、好印象をもったままユーザーが商品の購入やサービスを申し込む心理状態が発生しているのです。
購買行動の過程が変容したことで、企業視点のジャーニー型マーケティング戦略は時代遅れという声もありました。しかし、人々が生活していくうえでも購買行動は一度の商品購入で終わるものではありません。マップを活用することで、潜在的なニーズをもった見込み客の抽出や、新規顧客をリピーターとして定着させるようなアプローチなどから固定客の獲得を狙えます。また、企業や商品、提供するサービスに対して良い印象を持つ顧客が増えることで、SNSなどを通じた拡散効果や波及効果も期待できるのです。
カスタマージャーニーの作成を通して得られるメリット
カスタマージャーニーマップの作成によって得られるメリットはさまざまです。ここでは、3つのメリットについて解説します。
自社サービスについて顧客視点で見直せる
マーケティング戦略を検討する際、企業側の思惑に偏り、顧客の視点から関心が逸れてしまうこともあります。売る側の都合を優先した戦略は、継続的な成果につながる本質的なマーケティング戦略とはいえません。
カスタマージャーニーの手法では、顧客の購買行動の流れを心理面も併せて詳細に分析します。ひとつの表にまとめることで、さまざまな情報を網羅的に検討できます。また、カスタマージャーニーマップはタッチポイントと呼ばれる要所ごとに区切って整理されるため、顧客の購買過程に添ったサービスの見直しが行えるメリットがあります。
顧客の理解が深まる
同じ商品やサービスを利用していても、購買行動の背景にある顧客の嗜好、生活様式や属性はさまざまです。顧客視点でマップを見直すことで、単一の購買行動分析や新規顧客の獲得だけではなく、リピーターのサービス離反を抑止することにも役立ちます。
前述のとおり、SNSの普及に伴い、従来に比べて顧客が得られる情報のソースやきっかけは多様化しています。企業からの発信だけでなく、著名人やインフルエンサーなどの個人発信をきっかけに、商品やサービスを知ったユーザーが購買行動を起こすようなケースもあるのです。
購買行動の変化によって、企業は従来の視点やフレームワークをもとにしたマーケティング戦略では得られる効果に限界があるという課題を抱えていました。そこで、カスタマージャーニーマップの作成を通じて個々の顧客状況に則したアプローチを検討できるようになります。顧客への理解が深まることで、結果的に売上アップにもつながるでしょう。
関係者の認識が統一され意思決定がスムーズになる
マーケティング戦略は感覚的な要素もあるほか、同じマーケティング戦略でも、無意識のうちにメンバーごとに認識にすれ違いが生じてしまうこともあるでしょう。その場合、円滑な意思決定を行うのが難しくなります。
しかし、マップで図式化した情報をベースに共有を行えば、関係者間や社内での認識は統一されやすくなります。認識が統一されることで、メンバー同士や他部署、取引先などの外部とも連携がとりやすくなり、根拠を伴ったスムーズな意思決定が行えるという好循環が生まれるのです。
サービスに一貫性をもたせられる
サービスに一貫性があることは、顧客側の視点からも安心と信頼につながる重要な要素です。マップ作成を通じて顧客の思考や感情を理解し、サービスに反映することで、記憶に残る顧客体験(CX)を提供できるようになります。CXによって顧客満足度向上が見込め、同業他社との差別化、リピーターやロイヤルカスタマー*の獲得につながるといったメリットもあるでしょう。
*ロイヤルカスタマー:企業や商品、サービスに愛着を持った、継続的な取引のある顧客
カスタマージャーニーマップの構造
カスタマージャーニーマップでは、ペルソナとした顧客の行動を以下のようなマップ構造で整理します。
カスタマージャーニーマップの項目例
認知 |
興味や関心 |
購入/契約・体験 |
購入後・体験後 |
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顧客の行動 |
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タッチポイント |
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思考・感情 |
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課題 |
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課題への対応策 |
横軸に一連の購買行動の流れを示し、縦軸には段階ごとにアプローチの検討項目を書き込みます。設定するペルソナごとにマップを作成することで、客観的かつ具体的に顧客の購買行動を俯瞰できます。
なお、商品やサービスの内容に沿って項目は柔軟に修正しましょう。カスタマージャーニーマップは新規顧客の購買行動だけでなく「新規購入からリピート購入まで」「企業の採用活動」「飲食店における顧客の入店から退点まで」「旅行者の予約から旅行終了まで」などにも対応させることができます。
カスタマージャーニーマップの作り方
では、カスタマージャーニーマップは実際どのように作成されていくのでしょうか。ここからは、カスタマージャーニーマップの作成手順を流れに沿って解説します。
マップで設定するタッチポイント(点)の前後とのつながりに注目し、顧客の心理状況の展開を「線」としてつながるように作成を進めます。前述の構造表も併せて確認しましょう。
ペルソナ設定
まずはマップ作成のベースとして、対象となるペルソナを設定します。
ペルソナには「年齢や性別、家族構成などの基本情報」「経歴のプロフィール」「ライフスタイル」などの項目を設定します。自社サイトの訪問履歴などの顧客データを詳細に分析しながら、作成過程で書き加えられるゆとりを残しておくとよいでしょう。なお、実際の顧客との乖離を避けるため、企業視点で都合の良いペルソナを設定しないよう注意が必要です。
ゴール設定
次に、設定したペルソナに到達してもらいたいゴールを設定します。具体的には、カスタマージャーニーマップを作成することで、どのような成果につなげたいかということです。
ゴールには「サービスへの問い合わせ」「商品の購入」「商品のリピート購入」などさまざまです。設定するゴールによって検討する対策や集める情報も異なるので、数値目標なども取り入れつつ、メンバー内で設定するペルソナのゴールを共有しましょう。明確なゴールを設定することで、達成のために必要な情報や検討課題、行動を整理できます。
フェーズの設定
ゴールが定まったところで、マップに記載する横軸・縦軸のフェーズ(階層)を設定しましょう。
横軸には、一連の購買行動を設定します。縦軸は、横軸の各階層でペルソナが起こす行動や心理状態を中心に、ポジティブな要素とネガティブな要素の両側面から検討します。
また、情報を項目(テーマ)ごとに分け、縦軸の一番下には企業側がペルソナの課題に対してアプローチする具体的な対応策のフェーズを設定しましょう。
顧客の行動を洗い出す
分析や対策を検討する項目を設定したら、実際にマップに書き込んで整理します。この段階では、設定したゴールまでの過程をイメージし、顧客の行動を洗い出しましょう。
例えば、縦軸の「顧客の行動」と横軸の「認知」の箇所にはSNSや広告、口コミなど商品やサービスを知ったきっかけを記入します。洗い出した行動を参考に、タッチポイントや顧客接点も併せて検討していきます。
情報収集の際には「定量分析」と「定性分析」の2つの視点で進めるとよいでしょう。なお、オンラインやオフラインでのデータ分析は定量分析、顧客へのインタビューやアンケート、テストなどは定性分析となります。
顧客の感情を洗い出す
次にペルソナの思考や感情を検討します。感情は行動に伴って発生するもの、思考は疑問を抱きやすい内容などがあてはまります。
思考や感情の項目では、ポジティブな要素とネガティブな要素の両方を洗い出すようにしましょう。ただし、企業側に都合が良い理想像を設定しないよう注意が必要です。
課題と対策の設計
この段階では、焦点をペルソナから自社に変え「タッチポイント」「課題」「対応策」を検討します。情報の収集源には、アンケートや統計などの調査結果、寄せられた問い合わせ履歴、保有する顧客情報などがあります。
なお、対応策には抽象的なものを省き「ポイントの進呈」など、具体的な内容を設定しましょう。
対策の実践とカスタマージャーニーマップの改善
マップにある項目が一通り埋まったら対策を実践しましょう。そして反響を検証し、適宜マップの内容を見直します。
なお、マップを取り扱う際には以下の点に注意しましょう。
- 企業側にとって都合の良いマップにならないよう、事実でない部分は仮説検証を行う
- はじめからマップを詳細に作りこまず、適宜ブラッシュアップを図る
- マップの作成で満足せず、半年や1年スパンごとにバージョンアップを検討する
カスタマージャーニーマップは作成が終わりではありません。戦略や施策を進めながら、マップを更に良い形へ改善していく必要があります。
まとめ
カスタマージャーニーの作成では、マーケティングで扱う「ターゲット」をペルソナとして深化させます。複雑かつ多様化する顧客の購買行動のパターンに対する有効なマーケティング戦略を検討し、良質なCXを提供するうえでもマップの有用性は注目されています。
さまざまな思考法やフレームワークがマーケティング戦略に用いられますが、どれも自社の特徴や方向性に適した使い方ができなければ、利益や成功につながるアイデアは実りません。新規事業のアイデア発想、陥りやすい注意点、発展のポイントをまとめた資料がありますので、併せてぜひご覧ください。
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